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2008.10.20
『屍鬼』 ―この村は死によって包囲されている 【小説】【ホラー】【小野不由美】
![]() | 屍鬼〈3〉 (新潮文庫) (2002/02) 小野 不由美 商品詳細を見る |
屍鬼
小野 不由美
ハードカバーで途中まで読んでたけど、一旦止めてて、大分経って今頃文庫で続きを読みました。
その間に大分時間差があるんだけど、展開も遅い分、凄く丁寧に描写しているので、
かなり違和感なく、思い出しな読めましたね。
作者は、『十二国記』という小説を書いてて、こちらのほうで知っている方も多いと思います。
自分がそうです。
これと『黒祠の島』は読んだことあって、小野さんにホラーというイメージはなかったのですが、
この『屍鬼』という小説でホラーも書けると、認識を新たにしました。
ハードカバーにして、相当厚いです。
最初に手をとったときは、軽く最初のページをさらっと見るつもりだったのですが、
開けてしまったのが運の尽きでした。
どんどん読んでしまって、止まらないまま、ずっと読んでいました。
何よりも読みやすい。そして先の内容が気になる。
ものすごい吸引力のある小説だと感じたのが最初の印象です。
それで、ちょっと時間忘れてしまうので、これは大変だと思って、
時間があるときにゆっくり読もうと、先送りにしていました。
読もう読もうと思いながら、延ばしに延ばして、結構な時間がかかってしまいました。
今なら、そして、文庫本なら、息継ぎをしながら読めるだろうと、再読し始めたのですが、
魔力はハードカバーに劣らず、いとも簡単に飲みまれましたw
最初、私は何の前情報も何に知らなかったので、
ストーリー冒頭からの村人が死因不明の病で次々と死んでいくという不可解さ…
急に引越しをはじめて村を去ってしまう人々…
不審死の前後にこの村にやってきて屋敷に引っ越してきた家族の謎…
と気になる謎を提示され、ミステリーのように真相はなんだろうと、ページをめくっていました。
この村は死によって包囲されている――
この言葉を代表するように、ミステリーというよりも得体の知れない現状に次第
謎よりも恐怖、理由の分からないことによる恐怖、というもののほうが募ってきました。
村は次々と人が死んでいき、そのスピードも速くなっていく。
そういった事態に違和感を抱き、真相を究明して以降と能動的に活動する人々が出てくる一方、
なお村の異常を否定し正常にしがみつく人々、そして何も感じない人々、何もしない人々、
村にいるなんでもない人物に対しての描写がものすごく多いのがこの小説の特徴でした。
村が次第に暗い闇に覆われていく、そのじわじわとした侵略に読者としてもドキドキと恐怖を募らせていくのです。
この作品には多くの登場人物がいるのですが、メインキャラクターと考えられる人物(これだけでも多い)もいます。
代表格としては、坊主の室井静信と、医者の尾崎敏夫でしょう。
彼ら二人は幼馴染で、協力(というほどでもないが)してこの不可解な死の原因を探っている。
そこで、彼らは屍鬼の存在、事件の真相に行き着く
。
屍鬼とは起き上がりのことで、いわゆる吸血鬼。
屍鬼に血を吸われた人間が死ぬと何人かに1人の割合で蘇生し(起き上がり)、屍鬼となるらしい。
(死なずになる者もいて、人狼と呼んでいる)
全然前知識なかったので、いきなり屍鬼なんてのがいるというのは荒唐無稽な印象(それこそ村人の多くが感じた、あの荒唐無稽さ)を受けたのだが、読み進めていくうちに、そういう視点は変えられる。恐らく意図的に。
荒唐無稽ではなく、リアル、その場に起きているという実感に変わっていく。
そういう視点を作者によって意図的に変えさせられているのが読んでいて分かる。
この部分での、作者によって、”してやられた感”は大きい。
静信は、周囲からは寺の跡継ぎであり、親しみを込めて若御院と呼ばれている。小説書きで、そのせいか自分を深く省みて、自己嫌悪に陥りやすい結構めんどくさい性格。一方で、頑固な理想主義者みたいな一面もある。
逆に、敏夫は現実主義者的な人物で、静信と境遇は似ていて互いに共感している部分もあるようだが、かなり対照的な性格である。
彼らの屍鬼に対する対応の仕方は、後半につれてズレていく。
自分は静信の考えを受け入れられず、敏夫に共感をしているのだが、最終的には静信のほうに共感もしている。というか強制的にそう思わざるを得ないしね(あることで)。
さらに、屍鬼の正体に気づく高校生の夏野(←ファーストネーム)と田中姉弟(かおり、昭)や、
屍鬼・屋敷側の人、正志郎、千鶴、沙子、辰巳などなどの多数の人物がいる。
それ以外の村の人々が抱く異常性への反応や、迫る死への恐怖感みたいなものを、これでもかと丁寧に書いてくれる。
夏野たちのように真相に気づき、異常事態に対応するキャラクターもいるが、
ほとんどの人(特に大人)は、常識というバイアスで異常を理解できないし、理解しようとしない。
その歯がゆさなども相まって、真相に届く人々の苛立ちと無力さを共感する。
そこが面白い。恐怖にもつながって、非常に緻密に描かれているので、面白い。
逆に、屍鬼になってしまう人側の視点も多数存在する。これがいっそう面白い。
屍鬼になっても、かつての人間と脳としては同じなので、人間の血を吸わなければならない状況に陥った人々の描写も様々。
拒む人、拒んでいたが本能が耐えられなくて人を襲う人、境遇をむしろ喜んで受け入れる人、多数存在する。
彼らは悪ではない。悪ではないが、人間とは相容れない存在である。一種の悲劇的な運命を背負う彼らに待ち受けるのは何なのか、そこが見所にもなっている。
そういった悲劇の中心にいるのが、沙子である。
自分の行いに罪悪感を持ちながら、仕方がない吸血行為を続ける。
彼女の狙いは村を屍鬼のための村にし、自由に外を歩ける平和な社会にしたい。
彼女は静信に興味を持ち、静信も屍鬼としての彼女に共感する。
異端者の楽園は実現するのか、どうなのか。
それはラストに語られる。
屍鬼としての自分は生きるために吸血しているというのに何が悪いのか、
というものに対する違和感は常にあったが、ラストではちゃんとそれに対する違和感排除があったのでよかった。
つまり、彼らは屍鬼という別の生き物なのに、なお人間の考え方を持っているのが間違いだったのだ。
罪悪感を持つ必要はないし、人間とは完全に相容れないのだから、それは生存本能として人間に殺されることを罪と思う必要もないのだ。
Wikipediaを見てもらいたいが、全ての登場人物を挙げると、ものすごいことになる。
一種の群像劇(?)みたいなものなので、人の数だけは多い。
話の内容としては、村に不可解な死が蔓延しているという部分はずっと変わらないので、全く複雑ではない。むしろ、読みやすい。
ホラーとか関係なく、普通に読みやすい。内容はともかく、日本語としてこれほど安心して読めるものがあるのはとてもいいと感じる。
オマージュとして、キングの『呪われた町』があるらしい。
これは読んでみたい。
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